第九十夜 ラフロイグ10年

帰り道にいつの間にかできていた居酒屋。
たいして期待せずに暖簾をくぐり、椅子に腰を下ろす。

あの時、お通しに何かを期待していただろうか。
真鰈の揚げ浸しがでてきた時は正直驚いた。

しかも、揚げたてで衣がさくさくとしている。
鰈は酒のつまみにするには淡白にすぎるきらいがあるが、
揚げることで油のコクがそこを補う。
甘いたれと細切りのねぎ、鰈の旨み、軽い歯ごたえ。
これまでのお通しの中で文句なく最高ランク。

”これ、旨いです”
店の人と面識がないのなんて大きな問題ではなかった。
本当にこう感じたとき必ず言葉にして伝えることにしている。

嬉しくも意外な時間の為に選んだのはラフロイグ(というかアイラはこれしかなかった)。アイラ島の煙たいウィスキーではあるが、独特の控えめさがある気がする。そして旨み。

ゆっくり揚げ物のお供とするため、氷なしでソーダ水で割ってもらった。柔らかい炭酸の刺激とウィスキーの旨みが食欲を増す。

冬の宵。
こういうおいしいものに不意にであえるから、外食というのは面白い。