第九十八夜 クライヌリッシュ12年
”全てハーフショットで三杯、組み立てはお任せします”
こんな注文をしてみました。
お勧めのを聞いて其処から自分で一つづつ選んで行くのも良いけれども、バーテンダーさん各々の感性やノウハウを楽しみたければ良い方法です。
ポイントはハーフショットというところ。
まずは半分づつなので自分の身体に負担が少ないこと。
次にお値段も半分づつなのでバーテンダーさんが選ぶことのできるお酒の幅が広がること。
普通の人オーラ全開の私みたいな人に一杯二千円以上のウィスキーを勧めるのには慎重にならなければいけないわけで、かといって一個一個値段を確認しながらというのも興ざめなわけで。
ハーフなら二千円のウィスキーも千円、普通のウィスキーと同じ程度に納まるというわけです。
さてそんな三杯の中、一杯目がこのクライヌリッシュでした。ザ・ヴィンテージモルト社という瓶詰業者のクーパーズチョイスシリーズから。
12年と比較的若い原酒を、加水して46度。
最初の一口。口当たりが滑らかで、優しいです。
バーボン樽の木香が後味。潔いので次の一杯に響かない。最初の一杯の定石的ウィスキーといってよいと思います。
ちなみにこのクライヌリッシュ蒸留所は一回設備を一新してリニューアルしているのですが、その前はブローラという名前。
浦和の在る地下のバーにて。
粉雪舞う2月の夜、百日目へのカウントダウン開始です。
第百夜 ラガブーリン ダブルマチュアド
”三杯目はご希望のアイラで”
少し説明すると、ハーフショット三杯シリーズの最後はアイラ島にして欲しいとお願いをしていました。
ウィスキー好きの終着駅とも言われるラガブーリン。強力なピート香と甘みを含んだ飲み口が特徴です。しかし、ボトルを見たとき、色合いに違和感を覚えました。
アイラ島のピート香豊かなウィスキーは、それを引き立たせる為バーボン樽が主流のはず、なのに茶色がかったその色はなんとなくシェリー樽熟成っぽいのです。
話を聞いてみるとやはりシェリー樽熟成のラガブーリン。しっかりとピートの持つ香りが片方にあり、もう片方にはシェリー由来の甘くふくよかな風味。非常に力強いバランスとなっています。
だいたい甘いウィスキーが続くのは飽きるので好きでないのですが、先程の甘口は甘口でもこれとは全く違う雰囲気。すこしも口飽きすることなく楽しめました。
さっぱり飲みやすい→甘口1→甘口2(アイラ)という組み立てをその場で考えつくのは流石プロフェッショナルです。ただこのラガブーリン、非常に個性の強い酒ですので好き嫌いがどうしてもあります。そこで、実は反応がいまいちだったときの為にラフロイグのシェリー樽熟成を用意してくれていたとのこと。
貴腐ワイン樽熟成という変化球が3杯目にシェリー樽熟成のアイラを持ってくる為の伏線だったとは。まさに技ありです。
大好きなピートの香りを楽しみながら2月、雪の夜は更けていき、ここに足掛け二年かけてつづってきたこのブログもひと段落です。
勿論これからも呑むのは辞めませんが、百日は達成。
ウィスキーの楽しみを掘り進め、まだ尽きずさらに掘り進む、そんな二年間でした。
第九十九夜 アラン1996ソーテルヌフィニッシュ
二杯目は甘口を、という一言と共にテイスティンググラスには艶やかな琥珀色。
メドウサイドブレンディングというボトラーから。
アラン蒸留所の原酒をまずはアメリカンオークの樽で、続いてフランスの激甘貴腐ワイン、ソーテルヌワインの樽で熟成させている。
シェリー樽の甘口とはまた違った甘さ。
渋みと旨みよりも、抜ける甘さと葡萄の風味という感じ。
そもそもアラン蒸留所の原酒自体が甘さを要素として備えているのでかなり華やかな味になっている。
しかし、最大の特徴は味わいではなく余韻にあると思う。
オーク樽と麦のしっかりとした香りに重なるように続く貴腐ワイン。長く、長く口蓋に華やかな風味。なんだかとても幸せな気持ちになった。
一杯目は飲み口に任せて割合早いペースになりがちなので二杯目はゆっくり飲みたかった。そこにぴったりとはまる素敵なウィスキーでした。
貴腐ワイン樽熟成は面白いには面白いのですが、どちらかといえば変化球。何故とは思いつつも、この時点でこの球筋の意味を知る由もない私であった。
実はそこにはバーテンダーさんの細やかな気遣いが、ということで最終夜に続きます。
第九十七夜 グレンフィディック12年
ウィスキーと塩味について。
少し前、知る人ぞ知る”池袋の侍”が幾つかのウィスキーが持つ塩飴のような味わいについて教えてくれたことがあった。
確かクライネリッシュだったと思うが、煙たく甘いウィスキーばかり好んでいた私にはとても新鮮に感じられた。
現実的な話、ウィスキーに塩分はないはずだ。
しかし、それでも塩を連想してしまうのは塩の持つ独特の旨みとウィスキーの旨みに共通する部分があり、そこに潮の香りがかぶさってくるからだと思っている。
今日はクライネリッシュではなく、グレンフィディック。甘さの中に微かな塩味。実際に癖のない明るい酒だと思うが、奥の方に少しだけ潮を含んだ空気を感じる。
そんなことを思いつつ運ぶ箸、その先には烏賊の丸干しが在る。肝ごと真烏賊を干したのを、あぶってかじる。
身のストレートな旨みに加え、肝の複雑な風味。
こちらは潮というより海そのもの。ウィスキーの華やかさが気持ちよい。
スコットランドのウィスキーは海との連想で飲むウィスキーが多い気がする。一方、白州や山崎等日本の主要な蒸留所は海ではなく山。不思議だ。
第九十六夜 山崎シェリーカスク
山崎蒸留所という蒸留所があって、そこにはシェリー樽で熟成された原酒もあればパンチョン、ミズナラ、バーボンなどの樽で熟成された原酒もある。それらを組み合わせてこれだという味にしたのが山崎12年や18年という商品になります。
しかし組み合わせる前の原酒もおいしそう。
そんな気持ちにこたえてくれるのがこのシリーズです。
シェリーを含め四種類の樽(カスク)ごとの原酒をボトリング。各々の個性を楽しめます。
今回はその中でもシェリーカスク。
色々感じ方はあるとは思いますが、香りは巨峰だと思います。この季節に触れることのない香りなのでなんだか不思議な気分。
味わいも喉まで残る強い甘さとアクセント程度の渋さ。
麦の旨みもしっかりと舌にのってくる。
多分、一言にシェリーカスクといっても何種類もの個性をもった原酒の蓄積があるのでしょう。だから、シェリーカスクの原酒だけでこれだバランスの良い飲み口が実現できるのだと思う。このあたりが90年近い歴史を誇る蒸留所の力量が成せる業。
美味しかったなあ。
第九十四夜 モルト&ショコラ再び
シングルモルトとチョコレートの組み合わせが強烈にプッシュされ始めたのは、確か去年だった気がする。
去年もそう書いたが難しいにせよ、実際大変結構な組み合わせだと思う。苦味と甘み、時に混ざり合い時に引き立て合う、本当に素晴らしい相性だ。文句の一つもでない。
今年もそんな広告を頻繁にみる季節となったこともあり自宅にあるチョコレート関係とモルトの相性を探ってみた。
その結果非常に感銘を受けたのはガトーショコラとモルトの相性だった。ガトーショコラと一口に言ってもレシピは大きく二つに分かれている。オーブンに水を貼って生地を蒸し焼きにするタイプと天火でさくっと焼き上げるタイプ。
今年は後者を試してみた。
というのはサントリーをはじめとするウィスキーメーカーが推奨する生チョコにはどうにも口に残りすぎ、正直好ましくない印象をもっていたからだ。前者の蒸し焼きレシピにも同じ問題点がある。
さくっと軽い食感にかぶさるウィスキーの風味。
甘さはチョコレートが前面にでるが、余韻で苦味がきいてくる。正解。