第九十三夜 カティサーク

イカの塩辛が好きだ。
ワタの濃厚な風味と旨みの利いた塩味。

これで酒がすすむと言わないで何でそういえよう、と思っている。外人に見せるとドン引きされる料理だし、冷静に考えると結構残酷な料理方法ではあるけど、そうしたモラル上の問題を全て帳消しにするくらい旨い。

これにあわせるならやはりガンガンにピートの利いたアイラモルトだろう。ストレートできゅっと行くのが良い。

しかしその日、その店に置いてあるアイラモルトラフロイグだけだった。私にとって、それは何か受け入れられないようなものとして感じられた。それだけはしたくない。

そこで破れかぶれにて注文したのが、カティサーク。ブレンディッドウィスキー。理由は安いから。

中身はスペイサイド地方のモルトが主。つまりマッカランとかグレンロセスとか、花とか果実系の風味だ。塩辛とあうかは疑問符というか半分以上あきらめていた。

だが、その矢先。出てきた塩辛に違和感を覚えた。
何故か山型。半分液体の塩辛は山型になったりしないはず。

それはなんと塩辛の下に適度に絞った大根おろしと細く刻んだ葱。芸が細かい。塩辛の濃厚な風味と塩気を生かしつつも和らげており、心配していたカティサークとの相性も悪くないところに落ち着いている。

塩辛とカティサークでは無理でも、間に大根おろしと葱が加わることで組み合わせとして成り立っているのだろう。

何か多くを学んだ気持ちになりながら、杯はあっというまに乾いている。

肴というのは本当に奥深い。